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株式会社エリオニクス

開発技術部 技術一課 戸田 駿一

エリオニクスについて

当社は理化学機器を製造、販売している会社です。設立してもうすぐ50年になります。当社でどのような装置を作っているかということをざっと説明しますと、まず主力製品としては電子ビーム描画装置が挙げられます。これは、「色々な微細構造を作ることができる装置」です。この「色々」という非常に曖昧な表現ですが、実際にお客様によって目的が異なりますので、あるお客様は当社の装置を「半導体デバイスを作る装置」と表現するかもしれませんし、あるいは「量子ビットを作る装置」とおっしゃるかもしれません。更には「メタマテリアルを作る装置」とおっしゃるお客様も居られるでしょう。

このように、お客様が作っているものは様々ですが、これらに共通しているのは、非常に微細な加工を要するものであるということ、おおむねナノメートルのサイズで作られていることです。つまり当社は「ナノテクノロジーの装置メーカー」と言えるでしょう。当社はその他にも、電子顕微鏡、イオンエッチング装置、微小押し込み硬さ試験機等を扱っていますが、これらもすべてナノテクノロジーに関係する製品です。

図1 電子ビーム描画装置 ELS-BODEN Σ
図1 電子ビーム描画装置 ELS-BODEN Σ

この業界にはいったきっかけ、動機

就職活動の際は、漠然と製造業関係の会社を志望しており、半導体業界に限っていたわけではありませんでした。正直に申し上げますと、当時就職活動に悩んでいて、指導教官に相談したところ、当社を紹介していただきました。研究室で当社の電子ビーム描画装置を長年使用していたことでつながりがあり、過去に数名、研究室の先輩が当社に入社しているという話を聞いて、まずは会社見学をしてみようと思いました。

このように、一般的な方と比べて消極的な理由だとは思いますが、今になって考えてみると、大学での研究をほぼそのまま活かすことができているため、結果的には良かったと考えています。こういう就職活動と結果もあるということで、率直な内容を皆様にお知らせした次第です。

仕事内容、働き方、日常の出来事

入社後、今までに二つの部署・仕事内容を経験していますので、おおむね時系列に沿ってそれぞれ紹介したいと思います。
入社して研修を受けた後、装置を制御するソフトウェアを開発する部署に配属されました。入社2年目には新製品のソフトウェアの開発に関わり、自分でお客様のところまで納品に行きました。

本件で特に印象に残っている点は、このソフトウェアの特注部分のほとんどを任されたことで、仕様の検討や設計、コーディング等の業務を全体的に行い、現地での動作確認も自身で行いました。まだ経験が浅かったため、ミスが出てしまうこともありましたが、上司は私を信頼して仕事を任せてくれました。納品後の仕様の追加やトラブル時は、現地へ出張して対応を行いましたが、その時は上司だけではなく、多くの関係者の方からフォローしていただけたのをよく覚えています。
この仕事におけるお客様との会話や営業部との相談等から、今後も特注機能の需要が多くあるのではないかと考え、本件の特注要素を独立した解析用ソフトウェアとして開発することを提案しました。その際、上司への説明や説得は大変でしたが、営業部のバックアップもあり、開発を行うことができました。本件開発においては、自身のスキルアップを兼ねてソフトウェア開発をすべて自分で行いたいと考え、設計やプログラムのレビューやアドバイスは先輩社員から受けつつ、何とか開発を完了し、納品することができました。

このソフトウェアの有用性については、開発中の当時は社内でも懐疑的な意見を持つ社員もいました。しかし、お客様の要望に合わせた測定や解析を行うことができるようになったことで今まで想像もしていなかった業界のお客様から相談が来るようになり、実際にその業界のお客様へ装置を販売することができるようになりました。この経験は、大きな自信に繋がりました。
このソフトウェアのリリースが入社5年目の時でしたが、このころに別の部署から転属の相談がありました。それは装置に使用する、ある高難易度の部分品(以下、「ユニット」と記します)の設計や開発、生産等のプロジェクトの管理という今までの業務内容とは全く異なる業務でした。
このユニットは装置の性能に直結する、いわば心臓部のような重要なものです。それは私も理解していたため、話があったときは自分にその仕事がこなせるかどうか、全く自信が持てませんでした。それでも、大きな経験になると考え、現在所属している部署への転属を引き受けました。

配属されてすぐに、担当となったユニットの調査を行いましたが、機械、電気、ソフトウェアの総合的な知識が求められ、ユニット自体が一つの小さな装置の様相を呈していました。組み立てにも挑戦しましたが、ユニットに求められる性能が全く出ないばかりか、調整中に何回も壊してしまう始末で、出来上がったものは素人の目から見ても、改善点が多く残っている状態でした。このユニットを詳しく知っている人間は社内には少なく、そのため取り巻く状況自体が非常に複雑で、なかなか関係者の協力を得られない場面も多々ありました。
このままの状況ではいけないと考え、当該品の新規開発を行うことにしました。私自身このユニットの詳細設計はできませんが、運よくプロジェクトメンバーを集めることができ、開発の具体案をまとめることができました。どうにか上司や関係者の説得にも成功し、開発のプロジェクトがスタートしましたが、同時期に半導体需要の急激な増加により装置出荷数が増加し、その対応も必要になりました。

装置はユニットが一つでも欠ければ、動作しません。自分の担当しているユニットが原因で、装置製造に影響を出すわけにはいきませんが、開発を遅らせることもできません。このスケジュールの両立は、非常に厳しいものでした。しかし、このような状況でも、技術者として自分が納得できる製品を出荷できているかどうか、開発ができているかどうか、ということは常に考えるようにしていました。

それでも何とか試作機の開発に成功し、装置への組込試験を行うことができました。現在も開発は進んでいますが、自分が企画したものが実際に装置で動作しているのを見る事ができるのは、とても達成感があります。これはものづくりに関わることの醍醐味だと思います。

図2 クリーンルームでの作業の様子
図2 クリーンルームでの作業の様子

仕事のやりがい、また厳しさについて

中小企業だから、という必然的な側面もありますが、装置の企画から、開発・設計、組み立てや出荷、サポートまでの装置に関連する事すべてに関われることは大きな魅力だと思います。これは大企業ではなかなかできない事ではないでしょうか。その分、様々な仕事をこなす必要があり、時にはお客様から厳しいお言葉を頂くこともあります。

しかし、自社の装置が実際に使われて、どんなことに役立っているかということも同時に知ることができるため、それを次の製品開発に繋げることができると思います。また、当社のお客様の多くは、大学や研究所で最先端の研究や技術に関わっている方々です。研究の内容も多岐にわたり、非常に熱意を持って業務に当たられているため、私も大きな刺激を受け、それがモチベーションに繋がっています。

業務の種類によっては、大学や研究所と装置開発や研究を共同で行う事もあります。その際、お客様とのディスカッションや関連の論文を読み、自社の製品であればこんなことができるのではないか、と思いつくことがあります。こんな時は、自社の装置を使い、実際に実験することができます。社内にある自社の装置は、すべて社内システムで予約状況や使用状況が管理されており、空きがある場合は自由に予約して使うことができます。装置を使ってサンプルを作製し、その結果を共同研究先に共有することにより、新たな発見や装置開発へ繋がることもあります。実際に作製したサンプルをご紹介したいと思います(図3, 4)。
これらの結果は、「エリオニクスの装置でこんなことができるんだ!」と社外のみならず社内でも大きな反響を呼びました。この経験から、私は自社の製品と、それが生み出す成果に誇りを持つことができました。

図3 8インチウェハ全面に葛飾北斎の浮世絵を描画
図3 8インチウェハ全面に
葛飾北斎の浮世絵を描画

学生の皆様へ

私もそうだったのですが、大学では教養よりも専門の授業を優先しがちとなるのではないでしょうか。特に理系の場合は、実験や演習系の科目等の都合もあって、そうなりがちです。しかし、私がここで皆様に申し上げておきたいことは、教養にも是非興味を持って真剣に取り組んで貰いたい、ということです。特に、哲学や倫理学等は必ず学ぶべきでしょうが、これに限ることではありません。無論、これらの科目も専門同様に、その分野の専門家が授業を行っていますが、このような講義を受講することは、残念ながら大学卒業後は途端に難しくなってしまいます。
これらはすぐに役立つ性質のものでは無いのですが、専門よりもある意味で長く活用できる知識や思考形式が得られ、皆様の今後において役立つことは間違いありません。例を挙げると、仕事内容の紹介の時の「技術者として自分が納得できる製品」という表現ですが、これは専門より倫理として学んだことが強く影響していると思います。

是非様々なことに興味を持って学び、御自身の可能性を広げられることをお勧めいたします。

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図4 メタマテリアルで作られたカラーの絵画
(a)光学顕微鏡像 (b)サンプルの写真 (c)一部を拡大したSEM像

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