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株式会社日立ハイテク

知的財産本部 知財戦略企画部 篠原 香里

日立ハイテクについて

「日立」と聞くと、家電や鉄道のイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし半導体産業の発展にも貢献していることをご存じでしょうか。私の勤める日立ハイテクは、日立グループの一員として「見る・測る・分析する」コア技術を活用した計測・分析機器、医療機器、そして半導体製造装置の開発・販売を行っています。半導体分野では、エッチング装置や世界トップシェアを誇るCD-SEM(Critical Dimension Scanning Electron Microscope)等で、半導体メーカーのお客様を支えています。

私はその日立ハイテクで、知財戦略企画の仕事をしています。新卒から知財部門で働くのは珍しいキャリアパスかもしれません。本記事ではそんな私の社会人ライフをご紹介したいと思います。

半導体業界・知財部門に入ったきっかけ

私は法学部出身で、もともと半導体業界や知財を志望していたわけではありません。大学時代は宇宙に惹かれ、技術と法律の橋渡しをする仕事がしたいと思っていました。また、留学経験を通じて「将来は海外で働きたい」と考えるようになり、海外売上比率の高い日系テクノロジー企業の法務部を中心に就職活動を行いました。

そんな中、日立ハイテクの面接で「知財はどう?」と聞かれたのが私と知財の出会いでした。「知財って何をする部門ですか?」と聞き返したことを今でも覚えています。

正直なところ半導体にも知財にもピンと来ていませんでしたが、「20代で海外に行くチャンスがある」と言われたことが決め手となり、入社を決めました。その言葉通り、実際に20代から海外に行くことは珍しくなく、入社後わずか数か月で米国に出張した同期もいます。半導体業界は、若手のうちからグローバルに活躍できるチャンスが多いと実感しています。

日立ハイテクの半導体製造装置
日立ハイテクの半導体製造装置

仕事内容について

入社後、知財戦略の世界に足を踏み入れると想像よりもエキサイティングな業務が待っていました。日立ハイテクの知財部門は大きく二つに分かれます。一つが事業戦略に沿った知財活動計画を立案し、各設計部の発明権利化を行う知的財産部門。そしてもう一つが契約リスクマネジメントや知財情報の分析による新規事業創出のサポートと、海外現地法人含む全社の知財創出を促進する企画やその制度設計を担当する知財戦略企画部門です。私は後者に配属されました。法学部出身だし、担当業務は契約関係であって技術に関するものではないだろうと油断していたところ、最初の週に上司から渡されたのはIP ランドスケープの書籍でした。
特許とは、新しい技術を公開する代わりに国から一定期間の独占権を得る仕組みです。その公開された特許情報を分析し、自社の戦略に役立てることを「IP ランドスケープ」と呼びます。例えば「どの企業が、どの技術を、何年前から、何件出願しているか」を分析することで業界の動向や競争の方向性を把握し、自社が進むべき道を見極めます。さらに特許だけでなく、株主向け資料やニュースリリース、論文情報なども活用することで分析の精度を高めることができます。

入社当時「IP ランドスケープはまだ社内に経験豊富な人がいない新しい取り組み」と聞き、これを自分の得意分野にしようと意気込んで取り組んだのは正解でした。新聞やニュースを読むのが日課で、技術トレンドや社会情勢への好奇心が旺盛な自分に向いている仕事だったと思います。まるで鉱脈を掘り当てるように手がかりを探しながら必要な情報を素早く収集・整理し、分析や解釈を加えて事業にとって価値ある形で伝えることにやりがいを感じます。日立ハイテクは様々な検査計測技術を有しているため、半導体製造装置の知財分析をした翌日にがん検査手法の知財分析をすることもあります。幅広い分野を横断しながら最先端技術に触れられるのはこの仕事の醍醐味です。

もちろん、当初希望していた法律に関わる業務も担当しています。具体的な内容は、大学との共同研究契約の相談対応、海外現地法人の知財規則の改定、買収候補企業の知財リスク調査など多岐にわたります。日々舞い込んでくる新たなチャレンジに柔軟に対応し、臨機応変に解決策を打ち出す過程にはまるで総合格闘技のようなスリルがあります。飽きっぽい私にはとても刺激的でやりがいのある環境です。

このような業務について、若手のうちから日立のCTOや海外現地法人の上層部に対しプレゼンテーションをする機会があります。相手の立場に響く内容を考えることを繰り返していくうちに自然と知識や経験が蓄積され、会社全体の動きや事業ごとの戦略を俯瞰的に捉られるようになったと感じます。
入社7年目の今年からは後輩社員のトレーニングを任せてもらい、相談に乗ったりレクチャしたりすることも増えてきました。

自分次第の働き方

COVID-19以降は在宅勤務が中心となり、私の主な仕事場は都内にある1Kの独身寮です。戦略や知財に関する書籍が詰まった本棚の前で、サブディスプレイと大きなテーブルを使って業務を行っています。データベースで特許調査をしたり分析ツールで資料作成をしたりとディスプレイを眺める時間が長いので、集中するほど肩が凝ります。エルゴヒューマンの椅子を買ってからは少し楽になりましたが、こまめなストレッチを心がけています。

在宅勤務では通勤ラッシュを避け、静かな環境で集中できる点が大きなメリットです。上司もまた茨城県の自宅で在宅勤務をしているので、直接会うのは年に数回です。それでもお互い頻繁にチャットや通話でコミュニケーションを取っているため、業務上の不便を感じることはほぼありません。

一方で、虎ノ門ヒルズビジネスタワーの本社オフィスに出社することもあります。出社頻度は月に2回程度ですが、フレックスタイム制を活用し、通勤ラッシュを避けて10時頃に出社するようにしています。オフィス周辺には多くの飲食店があり、晴れた日には屋外のスペースでテイクアウトのお弁当を広げるが楽しみの一つです。日立にお堅い日本企業というイメージを持っている方には驚かれるかもしれませんが、社外の方と会うときを除き、普段はジーンズやポロシャツで出社する人も多いです。私自身も日頃からお気に入りのアクセサリーやネイルで仕事のモチベーションを上げています。

有給休暇は入社1年目から年24日付与され、半日や1時間単位に取り崩して使うこともできます。加えてフレックスタイム制では月間で就業時間を調整でき、例えば「昨日は19時まで残業した分、今日は16時に退勤して新橋のハッピーアワーを楽しむ」という働き方が可能です。私は業務の調整をしながら、平日の美術館やライブを楽しんでいます。成果をしっかり出していれば、周囲からも「楽しんできてね!」と言ってもらえる環境です。

虎ノ門ヒルズの屋外スぺ―ス。昼休みに立ち寄ってくれた大学時代の友人と。
虎ノ門ヒルズの屋外スぺ―ス。
昼休みに立ち寄ってくれた大学時代の友人と。

自己研鑽を後押ししてくれる環境

職場では、上司が働きながら大学院に通っていたり、司法試験に挑戦する先輩がいたりと、学び続けることが当たり前の雰囲気があります。仕事と勉強の両立は時に困難なこともありますが、日立ハイテクには社員の学びを支援する制度が整っています。

私も入社後すぐに、弁理士試験に挑戦しました。新卒配属時のチームは私以外全員弁理士だったので、「これは取るものなのか」と軽い気持ちで勉強を始めましたが、その難易度に気づくのはしばらくしてからでした。合格率約6%、30歳未満の弁理士は全体のわずか1%。最初の数年間は一次試験すら通らない時期が続き、一時は勉強を中断したこともありました。そんな中、弁理士試験の過酷さを経験した上司や先輩が温かく応援してくれたおかげで、なんとか勉強を継続することができました。合格を報告したとき、周りの人たちが自分以上に喜んでくれたのが嬉しかったです。

海外での学び

COVID-19以降は毎年海外出張の機会があります。知財分析結果の報告とディスカッションのため韓国の現地法人に行ったり、業界理解を深めるためシリコンバレーの国際学会に行ったりと出張内容も多様です。

研修先のオフィス
研修先のオフィス

研修先のオフィス

昨年、上司らの後押しのおかげで海外研修生に選抜され、現在は米国テキサス州ダラスのHitachi High-Tech America, Inc.で1年間の業務研修を受けています。研修先はエッチング装置のサプライチェーン部門で、知財部門とは仕事の進め方も雰囲気も全く異なります。

ここでは、日々の業務のスピード感やビジネスのダイナミズムを肌で感じています。これまで知財の視点から事業を捉えていましたが、実際の現場では知財はビジネスの一要素に過ぎないと痛感しました。顧客からの直接の要望に即座に応えることが重視される現場においては、日々刻々と変化する物流状況に対応しながら業務を進める必要があります。このような緊張感のある環境に身を置いたことで、この感覚を知財部門での仕事へ持ち帰ると同時に、知財以外を含めたより広い視点からビジネスに貢献したいと思うようになりました。

研修の週末は、日本ではできない経験を満喫しています。2月にはグループ会社の先輩とともにアラスカまでオーロラを見に行きました。また先日は、ピックアップトラックをレンタルして自然公園でのロードトリップを楽しみました。

アラスカ州フェアバンクスで見たオーロラ
アラスカ州フェアバンクスで見たオーロラ
ロードトリップで出会った野生動物
ロードトリップで出会った野生動物

今後のキャリア展望

20代で目標としていた弁理士試験合格と海外赴任が叶ったので、次は何に挑戦しようか楽しく頭を悩ませています。日本へ帰任後は大学院に行って体系的にビジネスを学ぶ、知財以外の部門に異動してビジネスのバランス感覚を鍛える、又は海外赴任ができるポジションを目指す、などの選択肢を検討中です。

社外に目を向けると特許事務所、コンサルティングファーム、シンクタンク、大学や研究機関のTLO(Technology Licensing Organization, 技術移転機関)等で知財のプロフェッショナルとしての活躍機会があります。待遇やライフイベント、タイミングによっては将来的にそのような環境に挑戦する可能性があることを念頭に置きつつ、自分の市場価値を高められるよう自己研鑽を続けるつもりです。

これから社会に出る皆様へ

就職活動をする際には、「どのような仕事をしたいか」だけでなく、「どこで働きたいか」「どのような仲間と働きたいか」「どのような30歳、40歳、50歳になりたいか」を考えることも重要です。幅広く情報を収集することで、新たな企業や職種との出会いがあるかもしれません。学生時代には半導体にも知財にも全く関心がなかった私ですが、当時思い描いていた以上の充実した社会人生活を送れているのはこの業界に入ったおかげだと感じています。

半導体業界の企業には、研究開発や設計だけでなく、技術営業、品質保証、生産管理、マーケティング、IT、そして知財など、多様な職種があります。「人と話すのが好き」「文章を書くのが得意」「外国語が強み」など、ご自身の特技を活かせる仕事がきっと見つかるはずです。

本記事が、学生の皆さんにとって知財に興味を持つきっかけになれば、それ以上に嬉しいことはありません。いつか皆さんと一緒に働ける日を楽しみにしています。

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