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ファスフォードテクノロジ株式会社
(2025. 5)
ボンダシステムセンタ ソフトウェア設計部 第2設計課 藤森 由樹
この業界に入ったきっかけ
大学では物理学を専攻し、自然のもっとも根源的な姿、あるいは宇宙の成り立ちを解明するために素粒子実験を行っていました。素粒子とは、私たちの体やモノを構成する原子よりもさらに小さな粒子のことです(みなさんに馴染みのあるところでは、電子が素粒子に該当します)。素粒子を「見る」ためには高エネルギー状態が必要であり、高エネルギー状態を作り出すために巨大な装置を必要とします。私の携わった研究では山手線一周くらいの大きさの装置を使っていました。このように、小さな世界を「見る」ために巨大な装置を必要とするギャップが、半導体という小さなものを作るのに大きな装置を必要としていることとリンクしていて面白そうだと思ったのが半導体業界との出会いです。
半導体業界と一口に言っても、半導体を作るのか、半導体製造装置を作るのか、あるいは半導体を作るための材料を作るのかなど、選択肢はたくさんあります。就職活動に向けて業界研究を進める中で、出来上がった装置を使うより自分で作る方が半導体の性能向上に貢献できて面白そうだと思い、就職先を半導体製造装置メーカに絞りました。半導体製造装置メーカはB to B の企業なので聞いたことのある名前の会社はほとんどなく、この選択のせいで会社選びは苦労することになりましたが...。
仕事内容、働き方、日常のできごと
私が入社したファスフォードテクノロジはダイボンダを開発・製造、販売しています。
ダイボンダは、半導体製造の「後工程」で使用される装置です。ウェハから切り出したIC チップ(ダイ)をリードフレームに精度良く載せるのがダイボンダの仕事です。文字に起こすと簡単に思えますが、精度よく、かつ素早くダイを載せるため、また薄いダイを壊さずにピックアップするために、長年培われた技術が用いられています。
現在、私はソフトウェア設計部に所属しています。まず、ソフトウェア設計業務について簡単にご説明します。ソフトウェア設計の工程は以下の通りです(実際には各工程の間でレビューを行います)。

- 要件定義:システムの要求・機能の明確化
- 設計:要求・機能の具体的な実現方法の検討
- コーディング:ソースコードの作成
- テスト:要求されている仕様を満足することを確認
各工程で作成した仕様書などのドキュメント類と、コーディングしたソースコードが成果物となります。案件によって期間は異なりますが、既存機能の修正などであれば数か月程度、開発案件のような時間のかかる案件の場合は、数年かけてこの設計フローを辿ります。
次に、当社ソフトウェア設計部の主な業務内容を下に示します。
- ユニット制御:正確に素早くダイボンドできるようにすることを目的とし、各ユニットを要求通りに動作させるための設計を行う
- 操作画面(UI):お客様が当社のダイボンダを使いやすいように、操作画面の設計を行う
- 通信:お客様の工場にあるホストとダイボンダの通信に関する設計を行う
- 画像認識:正確にボンディングするため、あるいは正確にボンディングできたか検査するために、カメラを用いた検査アルゴリズムの設計を行う
- デバイスドライバ:モータなどのハードウェアを動かすためのソフト設計を行う
私たちソフトウェア設計者はソフトウェアを作ることが仕事ですし、皆コーディングしている時間が一番楽しいと思っていると思います。例に漏れず私もその内の一人です。効率よく処理するにはどうすればいいか、後から手を加えることを考えるとデータ構造はこうした方がいいか、など工夫している時間が一番楽しいです。しかし、どんな案件も必ず「装置を動かすこと」がゴールになります。そのため、ときにはハードウェアの知識も必要となります。私は入社~3年目までデバイスドライバの設計を担当し、4年目~現在までユニット制御を担当しています。特にデバイスドライバの設計をしていた期間は、ハードウェア評価用の回路を組み、オシロスコープで収集したデータをまとめて報告することもありました。このように、デスクでパソコンとにらめっこするばかりがソフトウェア設計部の仕事ではなく、意外とアクティブに活動しますし、広い知識が必要なこともあります。
私は超インドア派なので、休日は家でゆっくり過ごすことが多いです。しかし、年に数回は学生時代の友人に会いに他県まで足を延ばします。友人の中には私と同じように半導体業界に進んだ人もおり、業界や仕事の話で盛り上がります。もちろん、盛り上がるためのお酒も欠かせません。


仕事のやりがい、また厳しさについて
一般的なソフトウェア開発では、要件定義や設計の上流工程を有識者が担当し、コーディングやテストの下流工程を初学者が担当することが多いと思います。しかし、当社では入社1、2年目の頃から、上流工程から下流工程までを一貫して任されます。上流工程を任されるということは、より大きな責任が伴うことになりますが「自分が担当した仕事だ」「自分が誰よりもこの仕事について詳しい」という意識が強くなります。そんな思いを抱えて仕事をすると、完成したときの喜びはひとしおです。設計した通りにユニットが動いたとき、期待通りの性能を発揮させることができたときは、感動のあまり「おお!」歓声を上げてしまいます。
ソフトウェア設計の仕事は、設計、コーディング、テストの繰り返しで退屈かもしれませんが、思い通りにモノが動いたときは何度経験しても嬉しいものです。
ソフトウェアにはバグがつきものです。納品した装置にバグが潜んでいた場合、お客様の生産がストップし、大きな損失を与えてしまうことになります。装置や製品を壊してしまうようなバグが潜んでいた場合はもっと大きな損失となってしまいます。例えば、装置の動作を決めるパラメータ(単にON/OFF を設定できるだけのものとします)が10個あったとします。これらの設定の組み合わせの数は2^10となり、この数だけ装置の動かし方があることになります。
装置の性能を良くするために設定できるパラメータを1つ増やすと、組み合わせの数は2^11となり、指数関数的に増えていきます。総当たりでテストを行えばバグをほぼ完全に取り除くことができるかもしれませんが、機能を追加する度にテストケースは指数関数的に増加してしまうため、リスク分析を行い、テストの範囲と優先順位を決定し、効率的にテストを行う必要があります。装置の性能にこだわることは大事ですが、バグとどう付き合うかを考えるもの同じだけ大事なことだと思っています。

学生の皆さまへ
就職活動で一番大事なことは軸を決めることだと思います。業界を絞ることも軸を決めることのひとつです。例えば、あなたがもし、20年後には車が空を飛んでいて、自分がそれを実現させたいと思うなら車業界に絞れば良いと思います。就職活動をしていた当時の私は、あと40年はシリコンの時代が続くだろうという直観を頼りに半導体業界に進むことを決めました。
半導体業界は近年最も注目されている業界の1つです。私たちの身の回りにはスマートフォンをはじめとする電子機器が溢れており、それらには半導体が使われています。また、自動運転や生成AI など、今後私たちの生活を豊かにする技術にも半導体は欠かせないものです。そんな無くてはならない半導体ですが、半導体業界は一産業に留まらず、国際政治を左右するほどの影響力を持つようになりました。 この記事を読んでいるあなたも、ニュースや新聞などで半導体の話題を目にし、「半導体業界とは?」と興味を持ったのかもしれません。今まさに揺れ動く半導体業界ですが、強い気持ちで乗り越えられる方、自分で道を切り開いてやるという信念を持った方はぜひ挑戦してみてください。この記事を読んだ方と一緒に仕事ができる日を楽しみにしています。


充実した職場環境で研究開発に励んでいます